2026/10/14 08:00


実は、毎月ファッジの新しいコレクションを作るようになったのには、ちょっと意外な理由があります。

はっきり言えば、ノムさんが新しい商品を作ることがとても苦しくなってしまったんです。


新作を出さないとお店やオンラインストアに来てもらえない。

だから買ってもらえない。

そんなことが続くのは怖いから、次のフレーバーを考える。


お客様に喜んでもらいたくて始めたはずなのに、いつの間にか「次は何を作ろうか」と考えること自体が仕事になっていました。

いやあ、これがなかなかしんどかったんですよ。


7粒入りのファッジは缶に入れて販売していることはご存知ですよね。

缶って、かわいいんです。

お客様がファッジを買う理由の、ノムさんの印象ですが、7割が缶のデザインで、2割が味で、1割が値段、と思っています。

缶がかわいいから、プレゼントにまとめ買いしてくださるお客様も少なくありません。


ただ、商品を作る側になると、なかなか悩ましいこともあります。

既製品なので、使える形やデザインには限りがあります。

新しい商品を作りたくても、ちょうどいい缶がメーカーから発売されなければ、どうにもなりません。


しかも缶を仕入れたら、その分だけファッジを作って売らなければいけない。

新しいものを考えるたびに、味だけでなく、缶の都合まで考えなければならなかったんです。

缶は1ケースあたり50缶入りで、2ケース買うと値引きしてくれるのでつい買っちゃう。

100缶届いて、「また買ってしまった、、、」とプレッシャーになる。


そんな商品づくりの考え方が変わるきっかけになったのが、ファッジの聖地を巡る旅でした。

現地のお店を訪ね、実際にファッジを食べ、オーナーや職人の話を聞く。

そんな旅をしてみると、どこへ行っても必ずあるフレーバーもあれば、土地によって違う表情があったり、それぞれに歴史や物語があることがわかりました。

僕が知らなかっただけで、ファッジには伝えたいことが、まだまだたくさんあったんです。


旅から帰ってきて、考えるようになったことがあります。

お客様に新しいファッジを見てもらったとき、「今度はどんな味なんだろう」と思ってもらうのも、もちろんうれしい。

でも、それだけじゃないんです。

「これ、OHISAMAらしいよね」

そう思ってもらえる商品を作りたい。

珍しい味を次々に出すことより、OHISAMAが何を大切にしているのか。それを商品を通じて伝えられるようになりたいと思うようになりました。


そこで、商品を考える順番を変えることにしました。

以前は、まず新しい味を考えていました。

でも、今は違います。

先に「今回は何を伝えたいのか」を考えるんです。

たとえば、英国のある風景や、旅先で出会ったお菓子の文化を表現したい。

そう決めたら、それに合うファッジは何だろう、どんな組み合わせなら楽しんでもらえるだろう、と考えていきます。

味を出発点にするのではなく、伝えたいことから商品を組み立てる。

これが、OHISAMAのコレクションという考え方です。


もうひとつ、大きく変わったことがあります。

パッケージを缶から紙に移行したことで、デザインの自由度が上がりました。

缶の発売を待つ必要もなくなり、必要な数に合わせてパッケージを用意できるようになりました。以前のように、仕入れた容器の在庫を抱える負担も減りました。

もちろん、自由になったからといって、やみくもに商品を増やすつもりはありません。

何を伝えるためのコレクションなのか。

そこを考えたうえで商品を作るようになったら、あれほど苦しかった新作づくりが、今度は楽しくなってきたんです。

同じ「新しい商品を作る」という仕事なのに、考え方が変わると、こんなにも違うんですね。


新しい味を作ることが、嫌になったわけではありません。

ただ、新しい味を作ることだけが目的になってしまうのは、違うと思ったんです。

ファッジには、まだまだ伝えたい物語があります。

その物語を、味やデザイン、そしてコレクションという形にして届けていく。

これからも、そんな商品づくりを楽しんでいきたいと思っています。


書いている人 ノムさん


広島生まれ。英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA代表。

公務員の家庭に育ち、大学を卒業後は食品会社に就職。一念発起して会社を退職し、宮島でパン屋を創業したものの繁忙期と閑散期のギャップから体調を崩し僅か5年で離島。その後、業種を変えながら再起を図るもうまくいかず、借金が2,500万円まで膨れ上がる。

これが最後の挑戦と覚悟を決め、安定した人気のスコーンを深堀りしていくことに。すると、その原点であるスコットランドのスクーン城にたどり着き、そこから英国菓子に興味が広がっていく。何世紀も変わらないレシピや伝統といった神秘性にハマり、店では全然売れなかったがとにかく作り続けて、売れ残ったものを食べる日々を過ごす。

そんなある日、東京の英国展に招待されてから人生が大きく動き始める。広島でも英国菓子が売れ始め、中でもファッジは借金を完済できるようになるまで経営の柱に成長。今では英国へファッジの取材へ行ったり、ファッジの歴史を調べることが大きな生きがいになっている。