2026/09/21 08:00


ファッジを口に入れると、最初はしっとりしています。

でも、キャラメルのように「ねっとり」と伸びるわけじゃない。

軽くかむとサクッと口の中で崩れ、ほどけるようにほろほろと溶けていく。

あの食感、どうやって作っていると思いますか?


実は、ファッジの「ほろっ」を作るうえで、大きな役割をしているのが砂糖です。


「え? 砂糖って、甘くするためだけのものじゃないの?」


もちろん、それもあります。

でもファッジでは、砂糖をどう結晶化させるかが、食感を決める大きなポイントになります。



結晶は、砂糖の小さな粒だと思ってください。

ざっくり言えば、


結晶が大きい → ザラザラした食感

結晶が細かい → なめらかで、ほろっとした食感


というイメージです。


結晶が大きい砂糖の代表は氷砂糖。

あの、梅酒をつくるときに入れるやつです。

その反対の代表は、ヴィクトリアサンドイッチケーキなどに化粧をするために振る粉砂糖。

同じ砂糖でも、結晶の大きさでずいぶん違いますよね。


では、ファッジではどうやって細かな結晶を作るのでしょうか。

ざっくり言うと、材料を煮詰めて、それを攪拌しながら冷却し、結晶の大きさや数をコントロールします。

流れを書くと、こんな感じ。


砂糖、乳製品などを煮詰める

砂糖をしっかり溶かす

適切なところまで温度を上げる

冷ましていく

結晶ができる

攪拌して細かな結晶を増やす

あの「ほろっ」へ


書くと超カンタンに見えるんですが、ファッジ作りはそんなに甘くはありません。

ここから、ファッジより甘いノムさんの失敗談です。


砂糖がだまになったままだと、かちんこちんの固まりがファッジができた後も残って、歯が欠けかけた(ややこしー)ことがあります。

それに、生地の中で砂糖がうまく結晶化できないと、目指しているサクホロ食感にならず、ねっちりしたファッジになります。


泡だて器って、鍋の底と側面の死角が混ぜにくいんです。

かと言って、ヘラは底の部分にこそげ残しができやすい。

そこでノムさんは、泡だて器を「高速」でかき混ぜる派。

生地をしっかり対流させて、同じ場所が熱の影響を受け続けないようにします。


一方で息子はヘラ派。

指先の感覚で生地の「ひっかかり」を探りながら、ゆっくりかき混ぜています。

みなさんなら、どっちを選びますか?


そして、ガスの火もやっかいです。

ファッジ作りの大切な相棒のようで、仲良くなりすぎるとすぐにいたずらをする、ちょっとやばいやつ。

生地の温度を徐々に上げているときはいいのだけど、鍋底ばかりに気を取られていると、ガスの火は側面をこっそりと、とんでもなく熱くしていきます。

気づいてかき混ぜ始めたときには、「ひじき」みたいな焦げがたくさん。


家で作るなら、IHヒーターがおすすめです。

コーンウォールやエジンバラにあるファッジショップでも、大型のIHヒーターで調理していました。

側面が焦げにくくなるので、底に神経を集中できるんです。


さて、目標の温度になったら、熱するのを止めて冷やします。

ここからが本当の勝負。

食感を左右する結晶を育てていくための、攪拌の開始です。


しっかりかき混ぜないと、結晶が大きくなりすぎて、固いファッジになります。

チョコレートファッジを作り始めた頃、この感覚がわからなくて、1000粒は棄ててしまうことになったんじゃないかと思います。

商品化をあきらめればよかったのに、たまたまうまくできたときに英国展の広告にエントリーしてしまって、、、。

投げ出せなくなってしまったんですよね。


でも、そのおかげで指から伝わる感覚が研ぎ澄まされてきました。

生地の表面にできる、わずかなざらつき。

結晶の乱反射による、ツヤの変化。

そういうものにも、少しずつ気づけるようになりました。


それからただ、かき混ぜればいいというものでもありません。

かき混ぜすぎて悪いことはありませんが、型に移してしっかり冷やし固め、均等な大きさにカットする場合は注意が必要です。

なぜなら、


「サクホロー、サクホロー」


と呪文のように唱えながら必死にかき混ぜている間に、鍋の中で固まってしまうから。


「超いい感じにできた!」


と自分に酔って、型に流せない。

そんな失敗を、何回したことか。


そして、ファッジ作りにはまだ鬼門があります。

型をプラスティック製のまな板の上に置くと、生地の熱で確実に曲がります。

最初の頃は冷えてしまえば元に戻るのですが、何回も作っていると徐々に戻らなくなります。

1枚目をダメにしたときは「最初はそんなこともあるわよ」と同情してくれた妻も、2枚目のときは、、、言いますまい。


流しの横のステンレスの部分でやると、今度は膨張して、生地が薄いところと厚いところができます。

自宅用なら、まあいいんですけど。

大量に作るようになった今は、大きな大理石のまな板の上に型を置いて、冷やし固めています。


大理石は熱を分散させ、変形しにくいのでおすすめです。

お値段がちょっとしますが、お菓子作りが趣味の人は持っておいて損はないと思います。


こうして書いてみると、ファッジってずいぶん手のかかるお菓子です。

材料を混ぜて煮れば完成、というわけではありません。


同じ材料を使っても、温度やタイミング、攪拌の加減が少し変わるだけで、食感が変わります。

だから、ノムさんが作るのと息子が作るのも、厳密には違います。

ムラは必ずあります。


音楽で言ったら、ゆらぎ。

人が作った証拠です。

大きさの微妙なバラツキも、包み方の違いも、そう。

そこまで含めて、OHISAMAのファッジです。


ファッジを食べたことがない方は、ぜひ一度、


「ほろっ」


を確かめてみてください。


キャラメルとは違う。

チョコレートとも違う。

口の中でほどけていく、あの不思議な食感。

これが、英国で昔から愛されてきたファッジの魅力のひとつです。

まずは2粒入りからどうぞ。


今日お話しした失敗談は、まだほんの一部。

またいつかの続きをお楽しみにー。



書いている人 ノムさん


広島生まれ。英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA代表。

公務員の家庭に育ち、大学を卒業後は食品会社に就職。一念発起して会社を退職し、宮島でパン屋を創業したものの繁忙期と閑散期のギャップから体調を崩し僅か5年で離島。その後、業種を変えながら再起を図るもうまくいかず、借金が2,500万円まで膨れ上がる。

これが最後の挑戦と覚悟を決め、安定した人気のスコーンを深堀りしていくことに。すると、その原点であるスコットランドのスクーン城にたどり着き、そこから英国菓子に興味が広がっていく。何世紀も変わらないレシピや伝統といった神秘性にハマり、店では全然売れなかったがとにかく作り続けて、売れ残ったものを食べる日々を過ごす。

そんなある日、東京の英国展に招待されてから人生が大きく動き始める。広島でも英国菓子が売れ始め、中でもファッジは借金を完済できるようになるまで経営の柱に成長。今では英国へファッジの取材へ行ったり、ファッジの歴史を調べることが大きな生きがいになっている。