2026/09/25 08:00


OHISAMAのロゴって、ちゃんと見たことありますか?

ファッジの袋にも印刷している、楕円形のあれです。

英国展から帰ってきて作ったので、まじまじと見たことのある人は、まだ少ないのではないでしょうか。

実はあのロゴ、けっこういろんなものが詰まっています。


OHISAMAは英国菓子のお店です。

なのに、ロゴの中に描かれているのは瀬戸内の風景。

英国の街並みでもありません。

ロンドンでもありません。


なぜ瀬戸内の風景にしたかというと、僕がこの場所でお菓子を作っているからです。

ファッジの聖地の一つ、コーンウォールを訪ねたとき、ファッジショップだけでなく、あちこちのお店で「CORNISH(コーンウォールの)」という文字を見ました。

店名にしていたり、商品名につけていたり、いろいろです。

ノムさんはそれを見て、


「地元を愛しているんだ」


と堂々と表現する姿勢に感銘を受けました。


宮島でパン屋を創業したとき、宮島とか瀬戸内とか、そういう言葉を使うのをなるべく避けていました。

島で暮らす人たちのためにパン屋を始めたのに、観光の力を借りるのはけしからんと(古い?)。

宮島を離れて今の場所に移ってからも、そのときに感じていた「観光アレルギー」から、広島という言葉を使うのさえ嫌になっていました。


ところが英国から帰国したら、お店から見る瀬戸内の風景が違って見えるようになりました。

子どもの頃、近くの浜辺で潮干狩りをしたり、釣りをしたり、潮だまりで生き物を探したりしていました。

ノムさんがいないときは、家族は海にいつも探しに行っていたそうです。

それくらい、海が好きでした。


英国菓子屋になった今、広島特産のレモン、宮島のはちみつ、瀬戸内の塩を使い続けています。

クリスマスプディングは、広島の森の木や、宮島名物の杓子を作るときに出る端材を窯で燃やして作っています。


だったら、コーンウォールの人々のように、


「瀬戸内が好き」


という気持ちを表現するのは自然だろうと。


それから、もう一つ。

聖地で感銘を受けたことがあります。

老舗のお店のロゴは、創業したばかりの頃の家とか、周辺の自然とか、そんなものがさらさらと描かれているものが多かったです。

もう、それがかっこよくて。


「ロゴって、こういうもんでしょう」


まるで、そう言っているようでした。


そんなわけでロゴにはまず、子どもの頃から毎日見ている瀬戸内の風景を描きました。

そして左側には、錨(いかり)を。

いかりって、船を止めるものですよね。

海を進んでいくためには、船を動かすことも大事だけど、時にはその場に留まることも必要です。

OHISAMAにとってのいかりは、「安定」です。


宮島でパン屋を創業したものの、繁忙期のあまりの大変さに体調を崩すことが増えて、宮島を離れました。

今の場所に来てから、業態を何度も変えました。

借金がかさんだり、スタッフに辞めてもらったり、苦しい時期を過ごしました。

英国菓子にたどり着いてから人生が好転し始め、仲間やお客様にも恵まれたおかげで、今のOHISAMAになりました。


ずいぶん遠回りしました。

だから今は、ここで少しでも長く続けられるお店を作りたいと思っています。

錨を描いたのは、その決意です。


店名の「OHISAMA」は、絵本『おひさまパン』を書いたエリサさんからもらいました。

主人公の犬が近所の動物たちおひさまの形をしたパンを焼き、地域を明るく照らす物語です。

地元に根差したお店になるためにつけた名前なので、錨とも深く関わっています。


続いて右側の獅子は「孤高」。

みんなと同じことをする必要はない。

誰かと競争するためではなく、自分たちが「これはいい」と思うものを作る。

それが、ファッジ。


日本人のほとんどが知らないお菓子です。

知ってもらうために、こうしてブログで説明したり、試食をたくさん配ったり、英国まで行って本場を見てきたりしました。

将来うまくいくかどうかなんて、やっている本人にもわかりません。

こういうことって、うまくいきそうだからやるんじゃないと思います。


瀬戸内。

錨。

獅子。


一つ一つは小さなモチーフです。

でも、ノムさんにとっては、OHISAMAをどういう店にしたいかを忘れないためのものです。

自分への約束です。


そのロゴが付いた袋の中に入っているのが、OHISAMAのファッジです。

英国で食べたファッジを、日本へそのまま持ってきたかったわけではありません。

英国で学んだことを、瀬戸内で自分なりに作っていきたい。

その思いで、今日もファッジを作っています。


ファッジを一粒食べるときに、袋のロゴをちょっとだけ見てみてください。

そこには、瀬戸内と英国と、ノムさんの「こういう店にしたい」が詰まっています。



書いている人 ノムさん


広島生まれ。英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA代表。

公務員の家庭に育ち、大学を卒業後は食品会社に就職。一念発起して会社を退職し、宮島でパン屋を創業したものの繁忙期と閑散期のギャップから体調を崩し僅か5年で離島。その後、業種を変えながら再起を図るもうまくいかず、借金が2,500万円まで膨れ上がる。

これが最後の挑戦と覚悟を決め、安定した人気のスコーンを深堀りしていくことに。すると、その原点であるスコットランドのスクーン城にたどり着き、そこから英国菓子に興味が広がっていく。何世紀も変わらないレシピや伝統といった神秘性にハマり、店では全然売れなかったがとにかく作り続けて、売れ残ったものを食べる日々を過ごす。

そんなある日、東京の英国展に招待されてから人生が大きく動き始める。広島でも英国菓子が売れ始め、中でもファッジは借金を完済できるようになるまで経営の柱に成長。今では英国へファッジの取材へ行ったり、ファッジの歴史を調べることが大きな生きがいになっている。