2026/10/06 08:00


ファッジを作る道具って、どんなものを想像しますか?
鍋、ヘラ、温度計、、、。
意外と普通でしょう。

ところが英国展に呼んでもらえるようになり、広島のお店でもオンラインストアでも、少しずつファッジが売れるようになる。
すると、今まで使っていた道具では追いつかなくなってきました。

まずは鍋。
小さな鍋では、何度も作らないといけないので生産性が上がりません。
じゃあ、倍の量を作ろう。
そうすると、今度はすぐに吹きこぼれる。

そこで大きな鍋に変えたのですが、ここでも問題が発生しました。
家庭用のIHヒーターでは、面積の大きくなった鍋底全体を熱することができません。
火力も足りないので、煮詰める時間がどんどん長くなる。

そこで工房にある業務用のガスコンロで作ることにしました。
火力は申し分なし。
ところが今度は、鍋の側面がガスの火で熱くなりすぎて、焦げる焦げる。
慣れるまで、ずいぶん時間がかかりました。

ファッジが売れなくても困る。
ファッジが売れても困る。
でも、売れなかった頃のことを考えたら、こんな苦労はいくらでもやります。(笑)

さて、ヘラにも問題が、、、。
大きな鍋に変えると混ぜる面積も広くなり、混ぜ残しが増えました。
ファッジは透明じゃないので、鍋底が見えません。
手の感覚だけに頼っていると、底が見事に焦げます。

考えた挙げ句、ヘラを泡立て器に持ち替えました。
鍋底を傷つけないようにシリコン製を使ったのですが、耐久性がなくてすぐ壊れる。
1回あたり20分間、ずっと混ぜ続けますからね。

仕方なく金属製に変更。
鍋底から少し浮かせて、生地に強い対流を起こすことで焦がさない方法に落ち着きました。
ちなみに、息子は今でもヘラ派です。(笑)

作る量が増えると、型も従来の大きさでは仕事になりません。
ネットで探しても、ちょうどいい大きさのものが見つからない。
そこで近くの金属加工会社さんを訪ねて相談したところ、快く作ってくださいました。

まな板も変わりました。
ファッジが売れなかった頃は、少量の生地ならすぐに冷えて固まるので問題ありませんでした。
ところが、たくさん作るようになると、なかなか冷えない。
すると、熱でまな板がどんどん曲がっていきます。

最終的に落ち着いたのが、大理石のまな板でした。
熱を逃がしやすく、変形もしにくい。
ファッジを作っていると、家にある普通の道具が、いつの間にか普通じゃなくなっていきます。

冷えて固まった大きな長方形のファッジは、製品にするために切り分けます。
これまでの家庭用の包丁では間に合わなくなり、長い長い包丁を新調しました。
五連のパイカッターも試しました。
一度に均等な幅の目印をつけられるのですが、切る力が弱い。

ピアノ線が張られた専用の機械なら、縦に1回、横に1回切るだけでファッジの粒ができる。
これは魅力的でした。
でも、そこそこいいお値段。
テスト使用もできなかったので、あきらめました。

結局、金属製の物差しで印をつけて、長い長い包丁で今も切っています。
、、、ずいぶん原始的です。(笑)
大きさにややバラツキが出ますが、OHISAMAらしい人間らしさがあってノムさんは良いと思っています。

ところが、英国まで行ってみると、もっと原始的な店がありました。
コーンウォールのお店では、生地を大理石の上にびろーんと広げ、金属製のスケッパーで器用に成形していました。
できあがった姿は、まるで巨大な板かまぼこ。
それを厚さ2cm、高さ10cmくらいに切り分けて売っています。
なんだか、自分がやっていることが馬鹿らしく思えました。

一方、エジンバラのお店では、巨大なIHヒーターの上で全自動の撹拌機を使って生地を作っていました。
でも、僕が一番目を奪われたのは機械ではありません。
まな板や型に生地がつかないようにクッキングシートをきれいにカットして、クリップで止めていく。
その所作が、お世辞抜きで本当に美しかった。
美味しいものは、職人の姿勢がいいのです。

ファッジ作りの道具は、地味です。
フランス菓子屋さんやチョコレート専門店のように、一般の人が見たこともないかっこいい道具や機械に囲まれているわけではありません。
家で普段使っているものばかりです。。

でも、こうして振り返ってみると、道具のほうがファッジに合わせて変わっていったんだなあと思います。
そして、道具を変えたから上手になったのではありません。
失敗したから、道具が変わった。
そしてファッジが売れるようになった。
それだけです。

あるファッジ職人が、しみじみと教えてくれました。

「日々、工夫していくことが大事なんだ」

深い。