2026/10/10 08:00

「ファッジをもらったら、うれしい?」
これ、ノムさんには結構難しい質問です。
もちろん、自分がファッジ好きならうれしい。
でも、ファッジを知らない人だったら?
「え、ファッジって何?」
となるかもしれません。
実はノムさん、ギフトのことを考えるのがあまり得意じゃないんです。
というのも、ノムさんはもともとパン屋だったからです。
パンってそんなに高級じゃないし、日持ちもしません。
ギフトにする発想なんて1ミリもありませんでした。
だからどうしても、「自分で食べるもの」という物差しで考えてしまいます。
「こんな値段で、誰が買うん?」
まず、そこから考えてしまうんですね。
誰かにプレゼントするなら、見た目をきれいにしたほうがいい。
箱に入れたほうがいい。
ラッピングしたほうがいい。
そんな発想は、どう逆立ちしたって思いつきません。
デコレーションの必要性も、よく分かっていませんでした。
そもそも、デコレーションする技術がありません(笑)。
ところが、英国展に招待されるようになって、日本橋三越はもちろん、新宿伊勢丹のお菓子売り場を見る機会が増えて、考えがだんだんと変わっていきました。
OHISAMAみたいに、商品を脱酸素剤と一緒に個包装してバラ売りしているところなんて、これっぽっちもありません。
まるで芸術品のようなパッケージに包装されたものばかり。
最初は、
「東京はお金持ちが多いからギフトが売れるんだろうね」
とか、
「どうせ、そんなかっこいいパッケージを作るお金なんてないし」
とか、ひがんでばかりでした(笑)。
ただ、それでもそんな商品が飛ぶように売れている事実は変わりません。
ン万円も買って行かれる方も、ちらほらいらっしゃいます。
さすがのノムさんも火が点きました。
「これ、なんでギフトに見えるんだろう?」
「この袋、かわいいな」
「この箱に入っていたら、もらった人はどう思うんだろう?」
すべてはファッジのためでした。
「今の人、何歳くらいじゃろう」
と顔をまじまじと眺めていたので、たぶん、かなり怪しいおじさんだったと思います(笑)。
そして、手始めに手提げバッグを作りました。
ちゃんとお金をかけて自分で作ったにもかかわらず、
「こんなん誰が買うんじゃろう?」
と思っていました。
しかも、有料です。
それなのに、思っていた以上に利用してくださいます。
「あれ?」
となりました。
さらに、Instagramか何かで、かわいいお菓子の箱を透明の袋に入れて、リボンで結んでいるのを見かけました。
過剰包装と批判的な目で見つつ、
「なるほどー、こうするんか」
と、翌日には真似してラッピングして売っていました。
そして、これも売れる。
でも、正直なところ、そのときはまだ、
「缶そのものが可愛いんだから、ラッピングなんていらないんじゃない?」
と思っていました。
そんな僕に、義姉がこんなことを言いました。
「知られていないお菓子は売れないって言うけど、ギフトは珍しいから喜ばれたりすることもあるんよ」
なるほど。
言われてみれば、そうなんです。
自分で食べるものなら、
「知らないものを買う」
というのは、ちょっと勇気がいります。
でも、誰かにプレゼントするものなら、
「これ、珍しいから食べてみて」
が理由になる。
ファッジを知らないことが、ギフトでは必ずしも弱点にならない。
むしろ、
「こんなの知ってる?」
と渡せる理由になることがあるんです。
さらに義姉から聞いたのが、
「プレゼントを習慣にしている人は、いつも新しいものを探している」
という話でした。
これも、ノムさんには新鮮でした。
自分だったら、
「去年これをあげたから、今年は別のものを探そう」
なんて、そこまで考えないかもしれないですから(笑)。
でも、誰かにプレゼントすることが習慣になっている人にとっては、
「今年は何を贈ろう?」
が、毎回の課題なんですよね。
そう考えると、ファッジもまだまだ知られていないからこそ、ギフトになる余地がある。
ギフトに対してコンプレックスの塊だったノムさんも、さすがに心が動きました。
そこで、小袋のデザインも見直しました。
ただ、かわいい袋を作ればいいわけじゃない。
袋を見た瞬間に、
「あ、ファッジだ」
「OHISAMAだ」
と思ってもらえるものにしたいと考えました。
そう考えて作ったのが、今の楕円形のロゴデザインです。
ファッジを知らない人にも、
「これは何のお菓子?」
ではなく、
「ファッジっていう英国のお菓子なんだ」
と覚えてもらえるようにです。
そして、誰かにそのまま渡しても、
「これ、プレゼントです」
と言えるくらいの面構えにしました。
もちろん、ロゴを変えたからといって、何でもすぐに売れるようになるわけではありません。
小袋を4種類、4袋セットにして箱に入れた商品は、思ったほど売れませんでした。
「4種類も入っていて、なかなかお得なものを作ってしまったではないか」
と悦に入っていたんですけど、これがなかなか大苦戦(笑)。
ところが、3種類を3袋にして、一つのコレクションとして見せたものは、初めからよく売れました。
どうやら、
「4種類全部食べてください」
よりも、
「今回は、この3つです」
と世界観を見せたほうが、ギフトとして選びやすいようなんです。
これも、やってみて初めて分かりました。
じゃあ、最初の質問に戻ります。
「ファッジをもらったら、うれしい?」
今のノムさんなら、
「うれしいに決まっとるじゃろ」
と答えます。
もちろん、ファッジを知っている人なら、好きな味をもらったらうれしい。
でも、知らない人でも、
「何これ?ファッジっていうお菓子なんだ」
「ちょっと食べてみようかな」
となるかもしれない。
そして食べてみて、
「これ、好きかも」
となったら、今度は自分でも買ってみる。
ギフトって、ただ商品を贈るだけじゃないんですね。
知らなかったものと出会うきっかけを、誰かに渡すことでもあるんだと思います。
ファッジは、まだ日本では知られていないお菓子です。
だから、自分で買って食べてくれる人を増やすことも大切です。
でも、
「これ、珍しいから食べてみて」
と誰かに渡してもらえたら、そこからまたファッジを知る人が生まれます。
そう考えると、ギフトって、ファッジを広げるための大事な入口なのかもしれません。
ノムさんは今でも、百貨店の食品フロアに行くと、ギフトばかり見ています。
「これ、もらったらうれしいかな?」
「こっちのほうが、ファッジらしいかな?」
そんなことを考えながら、今日もお菓子とお客様を観察しています。
ファッジをもらった人が、
「これ、何?」
から始まって、
「これ、ファッジっていうんだ」
そして、
「これ、好きかも」
となってくれたら。
今は、それが一番うれしいかもなあ。
書いている人 ノムさん
広島生まれ。英国菓子と紅茶のある暮らしOHISAMA代表。
公務員の家庭に育ち、大学を卒業後は食品会社に就職。一念発起して会社を退職し、宮島でパン屋を創業したものの繁忙期と閑散期のギャップから体調を崩し僅か5年で離島。その後、業種を変えながら再起を図るもうまくいかず、借金が2,500万円まで膨れ上がる。
これが最後の挑戦と覚悟を決め、安定した人気のスコーンを深堀りしていくことに。すると、その原点であるスコットランドのスクーン城にたどり着き、そこから英国菓子に興味が広がっていく。何世紀も変わらないレシピや伝統といった神秘性にハマり、店では全然売れなかったがとにかく作り続けて、売れ残ったものを食べる日々を過ごす。
そんなある日、東京の英国展に招待されてから人生が大きく動き始める。広島でも英国菓子が売れ始め、中でもファッジは借金を完済できるようになるまで経営の柱に成長。今では英国へファッジの取材へ行ったり、ファッジの歴史を調べることが大きな生きがいになっている。
